雑記やら拍手お返事やらSSやらを好き勝手に書いています。
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誰もいない部屋、主が不在の部屋に、カガリはひとりたたずんでいた。
綺麗に整理整頓されたそこは、物が最低限の物しかなく、ともすれば空き部屋のように見える。それでも、よく見てみればわずかに生活のあとがあった。
寝る前に彼が読んでいた本にはさまれたしおり。カガリがいつかにあげたペン。部屋の端に置かれた工具セット。
寝る前に彼が読んでいた本にはさまれたしおり。カガリがいつかにあげたペン。部屋の端に置かれた工具セット。
ここには確かに彼が――アスランがいた。
一瞬、愛しい人の幻覚が見えた気がして、けれども実際にはがらんどうとした部屋に、カガリの胸がつきりと痛む。
「アスラン……」
いつもなら、名を呼べばすぐにやってくるのに。
彼は先日プラントに向かってしまって、今はそばにいない。
この不安定な世界情勢の中、プラントの動向が気になるから、とデュランダル議長のもとへ行ってしまった。
仕方がないと思う。宇宙で出会ったテロリスト――ユニウスセブンを落としたコーディネイターたちは、アスランの父の名前を掲げていたのだから。
彼は父の罪をわが身のもののように思っている。それは二年経った今でも変わらない。
だから仕方ない、とは分かっているけれど。
アスランがいない――それがどうしようもなく、心細かった。
ふと、そばにあったクローゼットが目に入り、カガリは手を伸ばした。
中には彼の数少ない服が入っている。どれも見覚えのあるものだ。
それらを流し見てから、床にしゃがみこむ。低い位置にある引き出しをあけ、奥に隠すようにしまってあるあるものを取り出した。
鮮烈な赤色をしているそれを、じっと見つめてから、ぎゅっと胸に抱きしめる。
ずっと着ていないはずなのに、それでもはっきりと彼の匂いを感じて、目頭が熱くなる。
「……アス、ラン」
黒と赤を基調としたそれは、ザフトの赤服だった。アスランが前大戦でまとっていた信念の証。彼の正義の象徴だったもの。彼がオーブに来るのと引き換えに、捨ててしまったもの。
『もういらないし、処分してしまおうと思うんだが』
アスハ邸の一室に引っ越す準備をする中、アスランはそう言った。
赤い軍服は過去のものであり、自分の罪の象徴だからと。
それをカガリは拒否した。
今と同じように、脱いだ赤い軍服を胸に抱きしめて、守るようにして。
『捨てることないだろ。だって、これはおまえの――』
その続きをカガリは言葉にできず、アスランもまた困ったように笑っているだけだった。
なんといえばよかったのか。彼がかつて信じたもの。父への忠誠、愛国心のあらわれ、守りたいもの――それらをすべて、彼は最終的に捨ててしまったのだ。
とはいえ、その赤に愛着がなかったわけではないことを、カガリは知っている。ザフトレッドの証は、アスランの誇りであった。そう悪い思い出ばかりでもないだろう。彼の努力が得た勲章であり、ともに戦場を駆けた仲間との絆――と表現するとアスランやイザークは否定するかもしれないが――でもあったはずだ。
それを、もう着られないとはいえ、望んで捨てたいと思うはずがない。
『それに、これはずっとわたしたちを守ってくれただろ? 思い入れもあるし……捨ててほしくないんだ、わたしが』
『カガリ……』
アスランといえばザフトの赤服、次に赤いパイロットスーツ。そう思える程度には、カガリは軍服姿のアスランと一緒にすごしてきた。あの、極限の宇宙で。
軍服の間にカガリのあげたハウメアの守り石が揺れているのを何度も見たし、軍服姿の彼に抱きしめられたこともある。そのたびにカガリは恥ずかしくも嬉しい気持ちになった。
そんな――かつてのアスランそのものともいえる服を、捨てられるはずがなく。
結局、カガリの意を汲んでアスランは赤服をクローゼットの奥にしまい込んでいる。
「なあ……今は何をしているんだ?」
カガリは床に座り込んだまま、静かな部屋で呟いた。
もちろん返事は返ってこない。抱きしめた服から彼の匂いはするのに、声は聞こえず、頭を撫でてくれる手も、抱き締めてくれる体温も、今はない。
プラントに行きたいと言ったアスランを、カガリは止められなかった。
でも、きっと表情には出ていたのだろう。彼は申し訳なさそうに眉根を下げて、カガリを抱き締めてくれた。
本当は――本当は。
離れたくなんかなかったのに。
アスランがそばにいてくれるだけで、わたしの心には一本の折れない柱が生まれる。だから、どんなことがあっても諦めないでいられた。
でも、今は。
大西洋連邦との同盟を推し進めてくる首長たちの姿が、含みのある笑みを浮かべて迫ってくる婚約者の顔が頭に浮かぶ。
どうしようもなく追い詰められていた。
不安で仕方がなかった。
このままでは、アスランが望むものとは違った未来を歩むことになってしまう。
国を焼きたくなどないし、結婚だってしたくない。けれども――。
「わたしはどうすればいい……?」
カガリはすがるように赤服を抱きしめ、生地に顔を埋めた。
深く息を吸い込んで、彼の匂いを感じて、軋み続ける心をなんとか癒そうとする。
でもきっと、こうしているうちにもこの赤服からはアスランの匂いが消えていっているのだろう。
カガリがすがればすがるほど、彼の匂いは消えて、カガリの匂いが染みついていく。
カガリのそばからアスランの痕跡が消えていく。
それが良くない未来を暗示しているような気がして、カガリは肩を震わせた。
「はやく帰ってきてくれ、アスラン――」
カガリのまぶたから滲み出た涙は、赤い軍服にすいこまれていった。
――どうか、帰ってきて。
――おまえがいないと、わたしはこんなにも弱いんだ。
***
種でのアスランの赤服はどこにいったのだろう、とふと浮かんだ疑問から。
たぶん、捨ててないんじゃないかなあと思って……。
皆さんもお察しのとおり、実際にはアスランは帰ってこずにザフトに復帰しているので、書いてる側も心苦しかったです。運命中盤のアスカガは本当に切ない……。互いに想いあってはいるのに方法論の違いから対立してしまっているんですよね。
話はそれますが、小説版の運命ではアスランはアスハ邸の一室に住んでるという描写がありました。わあ同棲だ笑
でもアニメでは官舎に住んでいるようだったし、二つ部屋を持っているのか、それとも設定が違うのか……。
私は基本的に小説設定準拠で書いていくつもりです。小説版のほうがアスカガにやさしいし!←
連作の一部なので、ほかのやつも書き終えたらまとめてサイトにアップしようと思います。
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