雑記やら拍手お返事やらSSやらを好き勝手に書いています。
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Twitterからの再掲です。
皆月にとさんの絵に寄せて書かせていただいたものです。
カガリのまわりが血なまぐさすぎて、戦闘モードから正気に戻れなくなってしまったアスランの話。
アスランはカガリに何かあったらころっと狂気に落ちてしまいそうで危ういなぁ…。
続きからどうぞ。
皆月にとさんの絵に寄せて書かせていただいたものです。
カガリのまわりが血なまぐさすぎて、戦闘モードから正気に戻れなくなってしまったアスランの話。
アスランはカガリに何かあったらころっと狂気に落ちてしまいそうで危ういなぁ…。
続きからどうぞ。
ふたりのあいだには重苦しい沈黙が流れていた。
それがようやく破られたのは、アスハ邸に戻ってからだ。暮らし慣れた部屋のソファに腰をかけて、カガリはようやく安堵の息をついた。
「……つかれたな。お茶を頼むよ」
カガリが指示をすると、すぐに使用人がティーセットを運んでくる。それをさっと奪ったのは、ソファの横で直立していたアスランだ。
アスランは黙ってカップの中を検分し、ポットから注いだ一杯を口に含む。自分の舌で確認してから、彼はカップをカガリへと渡した。
「すまない、俺の飲みさしで」
「いいよ。おまえなら気にならないさ」
アスランが行ったのが毒見であるとわかっている以上、カガリはそれを咎めることも止めることもできなかった。ただ、彼の口に本物の毒が入ることのないように祈ることしかできない。
アスハ邸の人間ですら、今の彼には信用できないようだった。それも仕方がないだろう。つい先日、首長家のひとりが自宅で襲われ、命を落としたところなのだから。
「──っ」
「カガリッ!?」
カップを受け取った瞬間、カガリの腕に痛みが走る。上質な陶器を割らずに済んだのは、すんでのところでアスランが手を伸ばしたおかげだ。
「ごめん、大丈夫だ」
「傷が痛むのか?」
「すこしだけな。すぐに収まるから、気にするな」
カガリが作り笑いをしたところで、目の前の軍人には効果がないことなどわかりきっている。それでもカガリは笑った。彼女の腕の傷を、アスランの視界から隠すようにしながら。
カガリの負傷をアスランは自分の罪のように悔いている。カガリが暴漢に襲われた際、彼は別の任務に就いていたのにもかかわらず、だ。
『──すまない。俺が君を守るべきだったんだ』
アスランはその日からカガリのそばを離れなくなった。准将として、オーブの代表首長カガリ・ユラ・アスハの護衛に専念するようになったのだ。
オーブの──世界の情勢が危うくなったのは、最近のことだ。コーディネイターとナチュラルの和解を図るオーブに、新生ブルーコスモスを名乗る一団が現れ、プラントとの和平派である権力者を次々と襲ったのだ。その銃弾は、この国でもっとも手厚い警備のもとで暮らしているカガリすら傷つけた。
すぐに使用人が駆けつけ、カガリのこぼした紅茶の後始末にかかる。その邪魔にならないよう、カガリはアスランに導かれてソファの向かいに移動した。
「火傷はしていないか?」
「大丈夫だ。私にはかかっていないよ」
カガリがそう言っても、アスランは隣に座ったままカガリの腕をとり、熱い湯がかかっていないか念入りに調べている。
──そのときだ、ふいに部屋の扉が開いたのは。
「カガリさま? さきほどの音はいったい──」
「──アスラン!」
カガリの悲鳴のような叫びが部屋に響く。
部屋に入ってきた人物もまた、悲鳴を上げていた──ソファに座ったまま、侵入者を射殺さんばかりに睨みつけ銃を構えている男を見て。
「ひぃ……ッ」
「アスラン、落ち着けっ! マーナだ!!」
マーナの眉間に正確に銃口を向ける男の腕を、カガリは縋るように掴む。叫んでも、食い入るように扉を見つめているアスランには聞こえていないようだった。
永遠にも感じられるような数秒が過ぎて、ようやくアスランが銃をおろす。それでも彼の表情は、凍り付いたように変わらなかった。
「……すみません」
アスランはぼそりとそれだけを言って、懐に銃をしまう。うつむいた彼の髪の隙間から見えた目は、未だに殺気に燃えていた。
──アスランが“こう”なってしまったのは、カガリのせいだ。
「ごめんな、マーナ……怖がらせて」
カガリが扉のほうを見やると、マーナは腰を抜かして床に座り込んでおり、使用人たちに助け起こされているところだった。
不幸だったのは、カップの落ちる音を聞いた彼女が、ノックをせずに部屋に入ってきてしまったことだ。いまのカガリにとっては、自分の屋敷の中とて安全とはいえない。そしてアスランにはカガリを守る義務がある。
──現在のアスランにとって、自分とカガリ以外のすべてが“敵”となりうるのだ。
「アスラン……」
「……すまない、カガリ。俺は……」
はあ、と大きく息を吐く音がする。ため息ではない。まるで、興奮した獣にも似た息づかいだった。
うつむいたまま動かない彼に、カガリは両手を伸ばした。彼の広い背中に精一杯腕をまわして引き寄せる。未だに警戒心が解けないらしいアスランがびくりと体を揺らしたが、無視して抱きしめようとする。──軍服の下には固い感覚があり、彼がいくつもの武器を携帯していることが嫌でも感じられて、カガリは目頭がつんと痛むのを感じた。
彼はもはや引き金を引くのを迷いはしない。いつ何度襲ってくるかもしれない刺客に対し、ろくに食事も睡眠もとらず、カガリを守り続けている。戦いたくない、撃ちたくないのだと言って、モビルスーツに乗っても相手のカメラと武装しか撃たなかった少年は、もうどこにもいない。
彼にそうなることを強いたのは、カガリだ。
「……おまえのせいじゃない。おまえのせいじゃないんだ」
カガリはぐっと歯を食いしばり、アスランの軍服に顔を埋める。
白い軍服からは、鉄と硝煙のにおいがした。
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